どうも皆藤礼です。突然ですが皆さん、「主体思想」とは何か知っていますか?
おそらく知らない方の方が多いのではないかと思うので簡単に説明すると、主体思想とは北朝鮮の政治思想のことです。
と、言うと「北朝鮮って共産主義・社会主義の国じゃないの?」と思われるかもしれません。確かに北朝鮮は共産主義・社会主義の国ではあるんですが、共産主義の祖国ソ連や(共産主義を表向き掲げる)中国とはまた異なるんですね。その大きく異なる点が、北朝鮮オリジナルの政治思想である主体思想です。
今回紹介する本「金正日への宣戦布告 黄長燁回顧録」は、その主体思想を作るとともに、金日成・金正日という北朝鮮の政治指導者の政策ブレーンやゴーストライターとして活躍した、北朝鮮の哲学者、黄長燁(ファンジャンヨプ)氏の回顧録です。
黄長燁氏は、2010年に亡くなっているので、今回初めてその名前を知るという方も多いかもしれません。そこで、簡単に経歴を紹介しますと、日本統治下の朝鮮で生まれそこで学んだあと日本の中央大学に進まれ、日本による徴用で朝鮮に戻られ、北朝鮮建国後は金日成総合大学に進まれソ連のモスクワ大学への留学も経験され哲学者・教育者としてのキャリアを積まれたのち、政治にも関与することになり金日成総合大学総長をはじめとした各種の公職を経験され、1997年に脱北し2010年に亡くなりました。
さて、この本では黄長燁氏の人生を通じて、日本統治下の朝鮮や、北朝鮮建国後の北朝鮮の学術界や政界の姿、金日成や金正日の素顔などが明かされるわけですが、私が驚いたのは、北朝鮮の学術界においても研究者間の論争があるということと、黄長燁氏による金日成と金正日父子の人物像の対比ですね。黄氏によれば金日成は古風で家族主義的(悪い意味)だが、頭がよく度量があるといった感じで、一方の金正日は頭はよく自分に利益があると思えば新しい考えも取り入れるが、権力欲が強く謀術を駆使するといった感じで、黄氏は金日成の方を良く評価されています。なお、その金日成が70年代に金正日に権力を移譲し、息子の正日による偶像化が進められていくなかで尊大になり、正日を持ち上げるようになるという「哀れな転落ぶり」もこの本では描かれているわけですが…。
と、まあ、内容の紹介はここまでにして、本書は北朝鮮の指導者の人物像や北朝鮮のエリートの生活について知りたい方、そして、金一族のための主体思想ではなく、主体思想創始者による本当の主体思想を知りたい方にはぜひ読んでいただきたい一冊です。興味があればぜひご一読を。
それでは、また。
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